天気の子、自然現象の子、不登校の子
突然ですが、天気の子って、(二重の意味で)不登校の子の話だと思うんですよ。
そもそも天気の子(陽菜)は、天気をコントロールできる子というよりも、身体がどんどん天気になっていって、自分で自分も天気もコントロールできなくなる子なのです。言ってみれば、身体が半分天気でできた、天気人間。人の子でもあり、自然現象の子でもあるので、その両者の間で引き裂かれるような、とても不安定な存在として描かれています。
自然現象の子
でも、普通の人でも、そういうところがあると思うわけです。そもそも、百億年前にこの宇宙が開闢して以来、この世に自然現象でない現象などありません。すべてがなんらかの物理法則に従い、刻一刻と変化していっているわけです。
人間やっていると、ついついそのことを忘れがちになりますが、この文章を読んでいるあなたも、わたしも、自然現象の一部と言って差し支えないでしょう。
いやいや。でも、さすがに人間は違うっしょ。なんか、こう、理性とか、自由意志とかで、こう、自然現象じゃない部分もあるんじゃない? すべてが流されるままに、というわけではなくて、さすがに能動的に動いている部分もあるんじゃない?
……わかります。そう考えるのは、現代社会ではごくごく普通のことです。でも、それは、人類の歴史を通して必ずしも普遍的な考え方ではありませんでした。
中動態の子
ラテン語よりもさらに昔、古代ギリシア語やサンスクリット語の時代には、ありとあらゆる現象は身体の外で完結/進行するパターン(能動態)と、身体の中で完結/進行するパターン(中動態)に分けられていました。
現代の言語のように、誰かが何かをする(能動態)、あるいは何かをされる(受動態)で、物事を捉えていなかったのです。
現代の言語は、ある意味で「その行為はお前がやったのか、それとも誰かにやらされたのか」尋問する言語です。一方、中動態があったころの人たちは、誰かが何かをしていても、それをその人の意志によるものだと考えたりしませんでした。
例えば、「惚れる」という動詞は中動態的ですが、「よし、惚れるぞ!」と能動的に思う人はいませんし、かといって受動的に惚れるわけでもありません。ただ、自然現象のように、本人と外部の他者との相互作用の中で、そういう状態が発生し、それが本人の中で進行していくプロセス、それこそが「惚れる」なわけです。
不登校の子
不登校という現象も、中動態的です。不登校の子だって、「よし、不登校になるぞ!」と能動的に選択しているわけではありません。かといって、誰が強制的に登校を妨害している受動的な状況でもありません。
本人と環境の相互作用(学校とのミスマッチ)の中で、選択の余地なく、そうせざるをえなかった子なのです。
でも、大人はそれを自然現象のようなものというよりは、人間が意志のもとで選択した(あえて怠けている/甘えている)と解釈します。選択の余地がないのに、あたかも「選択の余地」があったかのように、不登校の子を責めてしまいがちです。
とはいえ、現代の言語には、中動態はすでに失われているので、どうしても「受動的でないなら能動的な行為だろう」と解釈してしまいがちなので、これはもう、言語の仕様上、仕方ないのかもしれません。言語が思考のフレームワークを規定している以上、そのフレームワークそのものをメタ的に認知しない限り、いくら言葉を重ねても会話が平行線のまま終わってしまうのだと思います。
天気の子
天気の子は、「自分が自分であり続けるためには、世界を犠牲にしないといけない。逆に、世界を保つためには、自分を犠牲にしないといけない」という話でした。自分が変わるか、世界を変えるか、その二択の中で、自分を変えるほうを選択するのが大人なのかもしれません。
でも、世界のかたちを変えるほうを選択することも、概念上はありえるわけです。
不登校の場合には、無理やり学校に通わせることが良い選択だと、長らく認識されてきました。しかし、最近では文科省も「不登校は問題行動ではない」と表現しているように、本人と学校のミスマッチがあるだけで、本人に問題があって変えなければいけないという風潮は廃れてきました。このこと自体は非常によいことだと思います。
もっといえば、本人が環境に適応するのではなく、環境のほうが本人に適応していってもよいはずです。環境(世界)のかたちを変えにいってもよいはずなのです。変わるべきなのは、大人のほうなのかもしれません。
少なくとも、「なんで不登校になったの?」と意志と責任の主体を想定して本人を尋問するのではなく、「不登校現象について、いろいろ考えてみたいので、あなたの仮説を教えてほしい」と、中動態のフレームワークで対話することは効果的です。
ちなみに
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